【深掘り】『寄生獣』の世界:人間とは何かを問いかけるSFの金字塔
岩明均氏によるSFコミックの金字塔『寄生獣』をご存知ですか? 1989年から連載が始まり、その後『月刊アフタヌーン』で完結した本作は、単行本全10巻(アフタヌーンKC版)で累計2400万部を超える発行部数を誇り、今なお多くの読者に読み継がれています。単なるホラーやモンスターパニックに留まらない、深い哲学的なテーマが魅力の作品です。
『寄生獣』とは? 物語のあらすじ
ある日突然、空から飛来した正体不明の生物「パラサイト」。彼らは人間の脳に寄生し、その肉体を乗っ取って人間を捕食し始めます。ごく平凡な高校生だった泉新一も一体のパラサイトに襲われますが、寸前のところで脳への侵入を免れ、パラサイトは彼の右腕に寄生します。このパラサイトの「ミギー」と二人の奇妙な共生生活が始まります。
彼らは他のパラサイトとの戦いに巻き込まれていく中で、新一は人間とパラサイトの「中間者」として、自らの身体と精神の変化、そして人間性の喪失に苦悩しながら成長していきます。
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『寄生獣』に登場するパラサイトたち:その驚くべき生態と多様な行動
『寄生獣』の物語を深く彩るのは、単なる捕食者ではない、パラサイトたちの多様な行動と進化です。初期の彼らは本能に忠実な存在でしたが、その高い学習能力によって急速に変化し、人間社会に適応しようとする様子が描かれています。彼らの行動を詳しく見ていきましょう。
基本的な行動原理と驚異的な進化
パラサイトたちの行動の根幹には、「この種を食い殺せ」という本能的な命令があります。
- 寄生と捕食: 空から飛来したパラサイトは人間の脳に寄生し、肉体を支配して他の人間を捕食します。これが彼らの生存戦略の基本です。
- 急速な学習と適応: パラサイトは非常に高い知性を持ち、テレビや本から短時間で人間の言語を習得します。例えば、ミギーはわずか1日で日本語をマスターし、新一の知らない間に車の運転まで覚えました。人間社会に溶け込むため、人間の表情を模倣しようとする個体もいます。
- 組織化と社会進出: 最初は獣的だったパラサイトたちも、理性と組織性を急速に身につけ、社会進出を目指します。広川剛志を中心としたグループは、人間を捕食する場所を「食堂」と名付けて組織的な活動を行いましたが、最終的には崩壊します。
個性の発現と多様な行動
パラサイトたちは一様ではなく、個体ごとに異なる行動や個性を示します。
- 自己保身と共生: 新一の右腕に寄生したミギーは、当初は自己中心的で、宿主である新一以外の人命には関心がありませんでした。しかし、新一との交流を通じて徐々に人間的な感情を理解し、お互いに信頼し合える存在へと変化していきます。自分の身を守るためには、同族であるパラサイトを殺すことも躊躇しません。
- 探究心と母性: 田宮良子(田村玲子)は、特に知能の高いパラサイトです。自己の存在意義や人間との関係について深く思索し、人間の子を妊娠・出産することで、生殖能力を持たないパラサイトのアイデンティティーを探求します。彼女の最期は、人間的な「母性」を発揮する感動的な場面として描かれています。
- 戦略的な擬態: 三木は、人間をナンパする成功率を上げるために、陽気で饒舌な振る舞いをしますが、ミギーからはこれを高度な擬態に過ぎないと指摘されています。
- 衝動的な行動: パラサイトAは、新一とミギーの存在を危険視し、衝動的に高校を襲撃し無差別殺傷事件を起こしました。彼の行動は「楽天的で、行き当たりばったり」と評されています。
- 戦闘への追求: 後藤は、5体のパラサイトが融合した最強の集合体で、圧倒的な戦闘能力を持ち、戦うことこそが自身の存在意義だと自覚しています。
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寄生失敗による行動の違い
脳への寄生に失敗したパラサイトは、その行動原理が大きく異なります。
- 脳以外の部位への寄生: ミギー(右腕)や宇田のジョー(顔下半分)のように、脳への寄生に失敗したパラサイトは、宿主を捕食するという本能が目覚めません。彼らは宿主から養分を得るため、人間を食べる必要がないのです。
- 人間以外の生物への寄生: 作中には犬に寄生したパラサイトも登場します。この個体は人間型に比べて知能や戦闘能力は劣っていましたが、寄生した種(犬)を食べる本能は持っていました。
コミュニケーションと感情の発露
パラサイトたちは、独特のコミュニケーション方法を持ち、人間との交流を通じて感情を理解し始める個体もいます。
- 脳波による感知: パラサイトは、微弱な特殊な脳波のようなものを常に発信・受信することで、近くにいる同種の存在を感知できます。特に「敵意」や「殺意」は強く発信されます。
- 感情の理解と発現: 基本的に感情に乏しいパラサイトですが、新一との交流を通して人間的な感情を理解するミギーや、人間のような「笑い」を自覚する田村玲子、さらには「怒り」の感情を発現させる草野など、個体によっては感情を獲得していく様子が描かれています。
『寄生獣』に登場するパラサイトたちの行動は、単なる捕食者という枠を超え、環境への適応、学習、社会性の形成、そして個性の発現という点で、非常に奥深い生命のあり方を問いかける鏡のようなものです。彼らの行動は、人間が自身を「地球の支配者」と考える傲慢さや、「人間らしさとは何か」という根源的な問いを私たちに投げかけてきます。

耳を食ったらミミーとかは無いんかい。
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