『タッチ』を深掘り!あだち充が描いた野球×恋愛漫画の金字塔

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世代を超えて愛される不朽の名作『タッチ』の魅力を徹底解剖!

あだち充先生の不朽の名作『タッチ』は、1981年から1986年まで『週刊少年サンデー』で連載され、多くの読者の心を掴んで離しませんでした。高校野球を舞台にしながらも、単なるスポーツ漫画にとどまらない深い人間ドラマと甘酸っぱい恋愛模様が描かれ、今なお色褪せることのない輝きを放っています。

『タッチ』のあゆみ:国民的漫画が誕生するまで

『タッチ』は、第28回(1982年度)小学館漫画賞を受賞し、単行本の初版は200万部、2004年12月時点でのコミックス総売上はなんと1億部を突破するという驚異的な記録を打ち立てました。これは、あだち充先生の作品の中でも最大のヒット作であり、その人気ぶりがうかがえます。

あだち充先生は1970年にデビューしており、本作はオリジナル作品としては初の週刊連載でした。連載期間の多くは、同時進行していたもう一つの人気作『みゆき』と重なっていたというから驚きですね。

 

物語の核心:運命が交錯する三角関係

物語は、要領が良いがどこかいい加減な兄・上杉達也、スポーツも勉強も真剣に取り組む優等生の弟・上杉和也、そして隣に住む幼馴染で学校のマドンナ的存在の浅倉南という3人の関係から始まります。中学3年生の時に互いを異性として意識し始め、微妙な三角関係のまま明青学園高等部へ進学します。

南は幼い頃からの夢として「甲子園につれてって。」という願いを抱いており、和也はその夢を叶えるために野球部のエースとして活躍します。達也も南に好意を抱きながらも、和也の努力を認め、自身の気持ちに蓋をしていました。和也は南にアプローチを始め、達也にも恋の戦いから逃げないよう促します。

和也の死、そして「バトンタッチ」された夢

しかし、『タッチ』の物語を決定づける衝撃的な展開が訪れます。甲子園地区予選決勝に向かう途中、和也が子供を庇って交通事故死するのです。この和也の死は当時の世間に大きな衝撃を与え、『あしたのジョー』中盤の力石徹の死に匹敵する社会現象となりました。編集部には非難の電話が殺到し、「人殺し」「許さない」といった声が聞かれたと言います。

実は、この和也の死は連載開始前から作者と担当編集者によって決定されていました。そして、タイトルの「タッチ」には、この和也から達也への夢の「バトンタッチ」という意味が込められているのです。

 

達也の決意:甲子園への新たな道

和也の死後、達也は亡き弟と南が交わした「南を甲子園に連れていく」という夢を受け継ぐことを強く意識し、ボクシング部から野球部に入部します。当初は和也の親友である正捕手の松平孝太郎に強く反発されますが、次第に達也の熱意が認められ、信頼を深めていきます。

物語が進むにつれて、達也は勢南高校の西村勇や須見工業高校の新田明男といったライバルたちと出会い、野球だけでなく南をめぐる恋愛でも競い合います。達也たちが3年生になると、監督が病で入院し、OBである柏葉英二郎が監督代行として就任。柏葉の厳しい指導が、結果的に部員たちの成長を促します。

奇跡の決勝戦、そして明かされる想い

高校生活最後の夏、明青学園は甲子園出場をかけて須見工業高校と決勝戦で対戦します。接戦の中、達也は和也の代わりを務めようとするあまり本調子が出ませんが、柏葉の言葉で吹っ切り、達也自身のプレイに立ち戻ります。

延長10回、2アウト2塁で強打者・新田との対決となり、明青ナインは敬遠ではなく真っ向勝負を選びます。達也は渾身の一投で新田を三振に打ち取り、明青学園は甲子園への切符を掴むのです。

エピローグでは、和也の夢を叶え目標を見失いかけた達也が、甲子園開会式当日に鳥取にいる南のもとを訪れ、遂に自分の気持ちを伝えます。「上杉達也は浅倉南を愛しています」「世界中のだれよりも」――この名台詞に、多くの読者が胸を熱くしました。物語は、南がインターハイ新体操で個人総合優勝を果たし、明青学園が甲子園で優勝したことが示唆されて幕を閉じます。

『タッチ』が描いた革新的なテーマ

『タッチ』は、当時のスポーツ漫画の常識を覆すような、いくつかの革新的なテーマを内包していました。

  • 「ラブコメハードボイルド」の誕生: 漫画評論家のCDB氏は、和也の死と残された二人の描写によって、あだち充先生がこの新しいジャンルを生み出したと評しています。
  • 「熱血の否定と再構築」: 本作は、1970年代までの主流だった熱血スポーツ漫画やスポ根ものの定石を否定、あるいはパロディ化する側面が見られます。達也は練習をサボったり、涼しい顔をしたりするなど、懸命な姿を前面に押し出すことはありません。また、甲子園での試合シーンは一切描かれず、最終話では優勝記念皿が映し出されるのみで結果を示します。これは登場人物の内に秘めた思いを「言葉ではなく態度で伝える」という、いわゆる「粋」な表現を追求した結果だとあだち充先生は語っています。
  • 「ゴール設定がエモい」: あだち充作品は、甲子園という舞台に乗りながらも、そのゴールは「人間関係(恋愛)の決着」であり、甲子園優勝はおまけくらいの扱いだと評されています。野球はあくまで添え物で、メインは「その恋路はどう落ち着くのか?」という点にあったのです。

『タッチ』は、単なる野球漫画ではなく、若者たちの成長、恋愛、そして深い絆を描いた不朽の名作です。まだ読んだことがない方はもちろん、かつて夢中になった方も、ぜひこの機会に『タッチ』の世界に触れてみてください。きっと、新たな発見と感動があるはずです。

 

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